アサヒ・アートスクエアを今までにない空間に変容する、自由で大胆な発想から生まれる作品や企画を公募する「オープン・スクエア・プロジェクト」。4回目であり最後となる今回は「VOCA展2004現代美術の展望−新しい平面の作家たち」(2004年)への出品をはじめ、関東を中心に精力的に作品発表を行う美術家、佐藤万絵子の個展「机の下でラブレター(ポストを焦がれて)」を開催いたします。
この一風変わった展覧会タイトルは、本展の内容だけでなく、現在に至る佐藤の創作活動を明瞭に物語っています。佐藤の美術家としてのスタートは、武蔵野美術大学在学中にさかのぼります。自分自身の「意図」が反映された描線を直視することが生理的にできなくなり、一切の絵が描けなくなるという危機を、視覚的に遮られた紙袋の内側に手探りで絵を描くことによって克服した経験。そうして一度は距離を置いた絵に対して、むしろ接触(一体化)することを求めて「大きな紙に身を沈めるようにして描く」パフォーマンス的作品へと至ったプロセス。また、2011年の東日本大震災にアトリエでの制作中に遭遇し、ベンジャミンを植えた植木鉢を抱きしめて机の下に隠れるさなかに突然浮かんだ「植物の蔓がどこまでも伸びて、家全体を包んで森になる」というイメージ。
佐藤にとって、絵を描くという触知的な体験と、そこから生まれ出た無数の描線は、決まったかたちや意味を持たない「言葉」とも言えます。言葉の連なりはやがて手紙となり、「机の下」という親密な空間の力を借りて「ラブレター」へと変容していきます。本展において、佐藤は天井高6メートル、総面積約260㎡のアサヒ・アートスクエアのメインフロアを巨大な机の下に見立て、これまで経験してきた物事やイメージを編み合わせた巨大な絵画空間を作り出します。これまでの展示ごとに描かれた、時に全長数メートルにも及ぶドローイングのほぼ全点を展示空間に配置し、同時に会期の約半分の日程をかけて新作を描き進めます。
この試みは、一人の美術家の「これまで」と「これから」のドローイング/ペインティングを出会わせるための構築方法の模索であり、文字や植物のように繁茂するラブレターという名の絵画世界は、やがてアサヒ・アートスクエアを呑み込み、新たな風景を生み出すでしょう。
フランス人デザイナー、フィリップ・スタルクがデザインした建物の4・5階吹き抜け部分を全面的に活用し、横だけでなく縦にも広がるインスタレーションが登場します。鑑賞者は4階で佐藤の絵画世界に体感的に触れ、その後、5階のバルコニーから作品の全体像を俯瞰することができます。
武蔵野美術大学在学中、現在につながる制作を始めた佐藤は、今年で作家活動19年目を迎えます。本展では、これまでに制作したドローイング作品を組み合わせたインスタレーションを披露。また、近年の佐藤が着目する「机」という空間に沿って制作した新作インスタレーション、参加希望者の記憶を佐藤が造形化した袋型の小品も登場します。過去最大規模となるミッドキャリア・レトロスペクティブにご期待ください。
会期は[第一期]と[第二期]に分けられます。1月9日[土]〜1月22日[金]までの第一期は新作インスタレーションの制作過程を、1月23日[土]〜1月30日[土]の第二期は、完成した状態の空間をご覧いただけます。絵の内側に潜るような触知的な体験を重視する佐藤にとって、空間が変化していくプロセスは重要な要素です。日々変容していく佐藤の絵画世界を、ぜひご体験ください。
アサヒ・アートスクエアは毎年1月、当館のユニークな空間の発信を目指す「オープン・スクエア・プロジェクト」を開催しています。本プロジェクトのテーマは〈空間の実験〉。公募で選ばれたアーティストが、高さ6m、総面積約260m2のメインフロアを中心にアサヒ・アートスクエアの空間の魅力を生かすことで、今までにない経験を創出する作品や企画を展開しています。
1975年秋田県生まれ。2000年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。絵画制作によって生じる「絵のなか」と「絵のそと」の境界を行き来した痕跡を風景として残す試みとして、主に紙を支持体にオイルスティックなどを使用した会場制作・インスタレーション作品を展開。同時に、1996年から始めた紙袋を支持体とした制作を、その「測り」として継続し、随時発表する。主なグループ展に2013年「ダイチュウショー 最近の抽象」府中市美術館市民ギャラリー(東京)、2012年「館林ジャンクション」群馬県立館林美術館(群馬)、2009年・2011年「所沢ビエンナーレ美術展−引込線−」西武鉄道旧所沢車両工場等(埼玉)、2004年「VOCA展2004現代美術の展望−新しい平面の作家たち」上野の森美術館(東京)、個展に2010年「防具をはずす(虹を受けとめるために)」(「四式」企画:OJUN)遊工房アートスペース(東京)、2008年「受けとめるもの-Catchers」(企画:吉崎和彦)LOOP HOLE(東京)、2004年「in the picture / out of the picture 絵のなか / 絵のそと」武蔵野美術大学αMプロジェクトvol.6(企画:児島やよい)、art space kimura ASK?(東京)など多数。
私のこれまでの18年間、そこにはいつも描線があった。それは、ひととつながる共通言語としては成り立ち得ない「届かぬラブレター」の蓄積であったとはいえまいか。今はもう描けない描線......過去の「届かぬラブレター」を包み込みながら、破り続けるしぐさを見つけろ。これからの私の絵に必要な建築法を、1月のアサヒ・アートスクエアでの個展で、初めて立ち上げる。
(2014年10月 佐藤万絵子)
アサヒ・アートスクエア オープン・スクエア・プロジェクト2015
佐藤万絵子展 "机の下でラブレター(ポストを焦がれて)"
2016年1月9日[土]〜1月30日[土]
時間:
第一期
1月9日[土]〜22日[金] 18:00-21:00
*制作過程をご覧いただけます(基本的に作家は不在です)。
*休館日:13日[水]〜15日[金]
第二期
記録撮影について
会期中、下記の日程で記録撮影を行います。
鑑賞エリアが一部変更になる場合がございます。
予めご了承ください。
・20日(水)
・24日(日)
・28日(木)
料金:
500円(パスポートチケット)
*会期中再入場可
会場:
アサヒ・アートスクエア
[東京都墨田区吾妻橋1-23-1 スーパードライホール4F]
主催:
アサヒ・アートスクエア
協賛:
アサヒビール株式会社、ユポ・コーポレーション
協力:
紙工房 堂地堂
特別協力:
株式会社 東京スタデオ CAS
お問い合わせ:
アサヒ・アートスクエア
Tel. 090-9118-5171
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佐藤さんの作品には複数の物語/エピソードが重層的に織り込まれているように感じた。それぞれの時間に制作された、紙や箱や木やオブジェが空間の中で煌めいている。本映像記録では、鑑賞者の目線で記録し、過度な演出をせずに展示空間を映像に編み込んだ。(山城大督)
齋藤さんの挑発的な演奏、それに呼応する体内から流れ出る色を定着する佐藤さんのパフォーマンス。その両者の挙動がわかるように、そして静寂のシーンも今回のパフォーマンスの見どころとして編集しました。(山城大督)